鑑定評価の基本的事項
不動産鑑定評価基準
不動産の鑑定評価において、基本的事項として、対象不動産、価格時点、価格または賃料の種類を明確にすることが求められます。
これにより、信頼性のある鑑定評価を行うための前提条件が整えられます。
対象不動産の確定
不動産鑑定評価を実施する際には、まず対象となる土地や建物の物理的な確認に加え、所有権およびその他の権利を確定する必要があります。
対象不動産を明確に他の不動産と区別し、実際の利用状況と照合して確認することが求められます。
鑑定評価の条件設定の意義
鑑定評価を行うには、現実の用途や権利、地域要因、個別的要因を所与として不動産の価格を求めるだけでは、取引実態や社会的需要に対応できない場合があります。
従って、条件設定が必要です。
条件設定は、対象不動産の内容や地域・個別要因に関する想定条件を明確にし、調査範囲を明示することが目的です。
鑑定評価の条件設定の手順
鑑定評価の条件は、依頼内容に応じて設定されます。不動産鑑定士は、受付行為を通じて間接的に確認し、条件の設定によって鑑定評価額に差異が生じる場合もあるため、依頼内容の直接確認が重要です。
対象確定条件の種類
- 土地のみまたは土地と建物の結合: 土地またはその結合による不動産を鑑定評価の対象とする。
- 独立鑑定評価: 土地が建物なしで鑑定評価の対象となる。
- 部分鑑定評価: 不動産の構成部分を鑑定評価の対象とする。
- 併合鑑定評価または分割鑑定評価: 不動産の併合または分割後の状態で鑑定評価を行う。
- 未竣工建物等鑑定評価: 工事が完了していない土地または建物の評価。
運用上の留意事項
- 対象確定条件の設定: 条件設定は、鑑定評価の対象不動産の現実の利用状況と異なる場合、鑑定評価書の利用者の利益を害さないよう配慮しなければならない。
- 未竣工建物等鑑定評価: 工事の完成と実現性、合法性を確認することが重要です。設計図書や権利関係の確認も行う必要があります。
不動産鑑定評価における価格の種類とその解説
1. 正常価格
定義
正常価格とは、現実の社会経済情勢を考慮した上で市場で成立する価格を指します。
具体的には、マクロ経済・地域経済の動向、不動産の需給動向、法制度や税制、取引慣行、市場参加者の価値観などが含まれます。
解説
「現実の社会経済情勢」とは、実際の経済状況や市場動向を指し、理想的な条件や想定された条件を排除した上で価格評価を行います。正常価格は、以下の条件を満たす市場での合理的な取引価格として求められます。
市場参加者の要件
- 「取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること」とは、対象不動産の市場についての知識や情報に基づいて、取引成立に必要な行動や費用をかけることを意味します。
- 「買主が通常の資金調達能力を有していること」とは、標準的な借入条件下で資金調達が可能であることを前提とします。特に、収益還元法や開発法における評価にも反映されます。
取引形態
- 市場の取引形態やプロセスが、正常価格を求める際の前提条件となります。
公開期間
- 正常価格は、価格時点において市場で形成されるものであり、その価格時点が成約時点であると考えられるため、公開期間は価格時点の前に経過している必要があります。
複合不動産の最有効使用
複合不動産の最有効使用は、現実の建物の用途を継続する場合と、用途変更や建物の取壊しを行う場合の経済価値を比較して判断します。
最も高い経済価値を示す使用方法を前提に正常価格を求めます。
2. 限定価格
定義
限定価格とは、特定の条件下で市場価値と乖離する場合に、相対的に限定された市場における価格を指します。例えば、他の不動産との併合や一部取得に基づく場合などです。
解説
限定価格は、以下のような場合に求められます。
借地権者が底地の併合を目的とする場合
- 借地権者が底地を併合する場合、完全所有権に復帰することから増分価値が生じるため、第三者間取引と価格が異なることがあります。この場合、限定価格が適用されます。
隣接不動産の併合を目的とする場合
- 隣接土地の併合により、併合後の土地の価格が併合前の土地の価格を上回ることがあります。これは寄与の原則に基づく増分価値が関係しています。
経済合理性に反する不動産の分割を前提とする場合
- 土地を分割して取得する場合、残地の利用効率が低下し減価が生じるため、分割価格は市場価値を乖離して、残地の減価分を補てんできる者に限定されます。
3. 特定価格
定義
特定価格とは、法令等による社会的要請に基づき、正常価格の前提条件を満たさない場合における価格を指します。市場性があるものの、正常価格と異なる条件下で求められる価格です。
解説
特定価格は、以下のような例で求められます。
証券化対象不動産の鑑定評価
- 投資法人等による投資採算価値を示す価格であり、収益力に基づいた評価が必要です。対象不動産の最有効使用と異なる運用方法が前提となる場合には特定価格として求められます。
民事再生法に基づく早期売却価格
- 財産を早期に処分するための価格であり、通常の市場公開期間よりも短い期間で売却されることを前提とします。
会社更生法や民事再生法に基づく事業継続価格
- 現状の事業が継続されることを前提にした価格です。
特定価格の性格
特定価格は、正常価格の前提条件を満たさない市場での価格を指し、必ずしも市場価値を正確に反映しないことがありますが、法令等に基づく要請から求められる価格です。
この内容は、不動産の評価や取引において重要な概念を理解する上で有用です。
参考リンク: