賃料増額請求権行使の要件を加重する特約の有効性について
賃貸借契約において、賃料の増減をめぐるトラブルは避けられません。
特に賃料増額請求については、社会経済の変動や物価の上昇を理由に賃貸人が増額を求めることが多く、これに対して賃借人が異議を唱えるケースも少なくありません。
今回は、賃料増額請求権の行使要件を加重する特約が有効とされた事例をもとに、その法的な位置づけやポイントを解説します。
1. 賃料増額請求権とその法的根拠
賃貸借契約は長期にわたる関係であり、契約当初に定めた賃料が将来的に不相当となることがあります。
そこで、借地借家法32条1項は「経済事情の変動等により賃料が不相当となった場合には、当事者は賃料の増減を請求できる」と規定しています。
また、当事者間で賃料増額請求を制限する特約を結ぶこともあります。
例えば「賃料が著しく不相当となった場合に限り増額請求できる」とする特約が有効かどうかが問題となります。
2. 事案の概要
本件は、X(賃貸人)とY(賃借人)との間で締結されたオフィスビルの賃貸借契約に関するものです。
物件: 鉄骨鉄筋コンクリート造10階建ての大型オフィスビル
契約期間: 2014年6月1日~2017年5月31日
賃料:
2014年6月1日~8月31日:0円(フリーレント)
2014年9月1日~12月31日:1,335万7,020円/月
2015年1月1日~2017年5月31日:6,678万5,103円/月
賃料改定に関する特約:
「賃料が著しく不相当と認められる場合に限り、当事者の協議によって賃料改定が可能」と規定
Xは2017年6月1日以降の賃料を7,680万8,386円に増額する旨を通知しましたが、Yはこれを拒否し、訴訟に発展しました。
3. 裁判所の判断
東京地裁は、「本件特約は借地借家法32条1項の要件を加重するものであり、賃料増額請求を制限する有効な特約である」と判断しました。
現行賃料と適正賃料との差が約6.6%であること
物価指数や経済状況の変動が賃料増額を正当化するほどではないこと
Xが賃借人誘致のためにYに有利な条件で契約した経緯があること
以上を考慮し、賃料増額請求は認められませんでした。その後の控訴審(東京高裁)でも、地裁の判断が維持され、Xの訴えは棄却されました。
4. 賃料増減請求に関する特約の有効性
判例では、以下のような賃料増額請求を制限する特約が有効とされています。
不増額特約:一定期間賃料の増額を禁止する特約(借地借家法32条1項但し書)
要件を加重する特約:「賃料が著しく不相当となった場合に限る」とする特約
本件特約も「賃料が著しく不相当と認められる場合に限る」というものであり、合理的なものであると判断されました。
5. 参考判例
東京地判平成22年12月7日
「2年経過ごとに賃料改定を協議し、改定後2年以内でも著しく不相当となった場合のみ増額できる」とする特約を有効と判断。
最判昭和56年4月20日
「将来の賃料は協議して定める」との約定がある場合でも、事後の協議で目的を達成できるならば、事前協議なしの増額通知も有効。
6. 実務上のポイント
特約の内容を慎重に検討する
「著しく不相当」といった文言を加えることで、増額請求のハードルを上げることができる。
契約交渉時の記録を残す
本件でも、契約締結時の交渉記録が裁判所の判断材料となった。
市場変動を考慮した契約条項を設定する
例えば、「消費者物価指数が10%以上上昇した場合は協議のうえ賃料改定可能」といった条項を設ける。
まとめ
賃料増額請求の可否は、契約の内容や経済状況によって大きく左右されます。本件のように、賃料増額請求の要件を厳しくする特約を設けることは、賃借人にとって有利な交渉材料となります。一方で、賃貸人側としては、契約締結時に将来的なリスクを十分に見極めることが重要です。
今後、賃貸借契約を結ぶ際には、特約の文言や経済事情の変動を考慮し、適切な契約内容を設定することが求められるでしょう。
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