投資物件が売買された場合の不払賃料・不払更新料の承継
概要
投資物件が売買された際、新しい賃貸人は旧賃貸人が未回収の不払賃料や不払更新料を引き継げるのでしょうか。
この記事では、賃貸人の地位移転に伴う未払金の請求権の扱いや、過去の事例について詳しく解説します。
不動産取引や投資に関心のある方にとって、理解が重要なテーマです。
事案の概要
本事案では、投資物件の所有者が変わった際に、既存の賃借人に対する未払賃料や更新料を新しい所有者が請求できるかが争点となりました。
賃貸人Bと賃借人Yは、平成18年に建物の賃貸借契約を締結しました。
賃料の改定条件や更新料の支払い条件について、契約には特約が含まれており、改修工事完了後には賃料が10%値上げされることが記載されていました。
また、更新される場合には新賃料1か月分の更新料が必要とされていました。
この建物は平成27年に新しい所有者Xに譲渡されましたが、Yとの賃貸借契約は法定更新の形で継続していました。
新しい所有者Xは、旧賃貸人Bが受け取っていない賃料増額分や過去5回分の更新料について賃借人Yに支払いを求めましたが、裁判所はXの請求を認めませんでした。
裁判所の判断
裁判所は、旧賃貸人が賃貸人として持っていた未払賃料や更新料の請求権は、賃貸人の地位の移転とともに新しい賃貸人に自動的に移転するものではないと判断しました。
これには、別途「債権譲渡」の合意が必要であり、本件ではその合意がないことから、請求権の移転は否定されました。
さらに、賃料増額特約の解釈についても、「賃料改定時期の明確な定めがない」ことや「賃貸人と賃借人の協議が行われていない」点から、賃料増額請求の根拠自体が不明確であるとされました。
このため、改定後の増額賃料に基づく未払賃料の請求も退けられました。
更新料についても、法定更新後に更新料が発生することはなく、新しい賃貸人が法定更新前の未払更新料を請求する権利も否定されています。
これは、更新料が賃貸借契約の期間延長に対する対価であり、法定更新によってその義務が生じないと解されるためです。
本件の検討と考察
この事例から学べるポイントは、投資物件の購入に際して、賃貸人の地位移転に伴う過去の未払賃料や更新料の請求権が自動的に譲渡されるわけではない点です。
投資物件の買い手は、未収金の請求権について、事前に旧賃貸人と譲渡契約を明確に結んでおくことが不可欠です。
また、賃貸借契約に記載された増額特約や更新料の取り決めがあいまいな場合、請求が困難となることも留意しておくべきでしょう。
関連する判例
東京地判 令和3年3月29日
賃貸人の地位が移転した際、新賃貸人が旧賃貸人から債権譲渡を受けて賃料不払いを理由に契約を解除した事例。仙台高判 平成25年2月13日
賃借人が賃料を賃貸人の建築協力金償還金の一部と相殺することが認められた事例。
まとめ
投資物件の購入に際し、未収金請求の権利関係を整理するために、旧賃貸人との債権譲渡に関する合意が不可欠です。
こうしたリスク管理を通じて、賃貸経営の信頼性を高めることが可能です。
投資物件を通じた安定収入を目指す方は、購入前に未収金の扱いを慎重に確認することが大切です。